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2019年10月16日 (水)

エアフォース・ワン、リジェクトスコア

Af1  ヴォルフガング・ペーターゼン監督、ハリソン・フォード主演のアクション作は大ヒットしたものの、映画音楽ファンには有名だが、公開直前になって音楽を差し替えするドタバタ劇があった。
 元々、『トイストーリー』などで有名なシンガーソングライターでもあるランディ・ニューマンが担当しており、完成直前まで行った。ハリウッドでは完成後、ないしは完成直前にリサーチの一環として一般人を招いて試写をする。その反応を見て修正(編集を変えたり、再撮影したり)したり、劇場公開からビデオスルーに格下げしたり、逆にヒットを確信して公開規模を拡大したりという判断をするわけだ。
 本作の場合、特に音楽に対する反応が悪かった。アクションの度に笑いが起きたといわれている。プロデューサーの決断で音楽の差し替えが決まり、たまたま空いていたジェリー・ゴールドスミスに決まる。しかし、録音・音楽編集まで考えると作曲にはわずか3週間しかかけられない。通常なら2ヶ月程度はかける仕事だ。
 ちなみに、映画音楽は70年代なら2時間の映画なら60分程度の音楽で充分だったのだが、『スター・ウォーズ』以降、どんどん増え、90分以上(ものによっては編集段階でカットされて本編以上の長さだったり)の音楽が必要となっている。本作では95分程度だ。
 そこでゴールドスミスは若手ジョエル・マクニーリーに手伝ってもらうことにする。マクニーリーはゴールドスミスのスケッチを元に曲数で言うと半分ほど(時間的には1/3以下)担当。1曲のみマクニーリー単独のクレジットあり。こうして完成したのが公開版となった。
 ちなみにスケッチとは曲のおおまかなアイディアや進行などの指示を書いたメモのことで、作曲家によって色々なものがある。ゴールドスミスやジョン・ウィリアムズのスケッチはほぼ曲として完成しているレベルで、それを元にオーケストレイションをする。そのため、オーケストレイターにクリエイティヴな要素はないとして、ジョン・ウィリアムズは自分がプロデュースするアルバムにはオーケストレイターのクレジットを入れていない。

エアフォース・ワン(1997)
AIR FORCE ONE

■VARESE SARABANDE
■TOWER

 出たばかりのジェリー・ゴールドスミスのスコア完全盤2枚組。96分のフルスコアを収録。限定5000セット

 ペーターゼン監督作品は見事なくらい音楽担当がバラバラで、傾向も読み取れない。ドイツ時代の『ネバー・エンディング・ストーリー』と『Uボート』はクラウス・ドルディンガー、ハリウッドに渡って『第五惑星』モーリス・ジャール、、『プラスティック・ナイトメア/仮面の情事』アラン・シルヴェストリ、『ザ・シークレット・サービス』エンニオ・モリコーネ、『アウトブレイク』ジェイムズ・ニュートン=ハワード、本作、『パーフェクト・ストーム』と『トロイ』ジェイムズ・ホーナー、『ポセイドン』クラウス・バデルトである。『トロイ』のみホーナーが二連投しているが、これも元々ガブリエル・ヤーレだったのがリジェクトされての交代だった。
 恐らく、作曲家の選択は監督の人選というより、プロデューサーからの推薦など製作サイドの意向が大きいのではないか。その中で、リジェクトされた本作と『トロイ』は監督本人の希望だったのかもしれない。どちらも監督と作曲家の綿密な打合せがあり、監督は満足していたと言われている。中でもヤーレは監督と数ヶ月に及ぶ打合せと録音で絶賛したのに裏切られたと言わんばかりのコメントと共に、自分のサイトに全曲をアップし、スタジオ側にストップをかけられた(リジェクトされてもスタジオに権利があるため)。

 では、『エアフォース・ワン』劇場公開版は廉価でビデオが出ているので観ているものとして、再構成した2シーンを見比べてみよう。音響をすべて消した上で、音楽を入れ替え、可能な限りSEやセリフを戻すという面倒な作業をしたOtisberg氏に感謝を。

序盤、いよいよテロリストが大統領専用機をハイジャックするシーン。

Randy Newman - Air Force One - Rejected Score - The Hijacking from Otisberg on Vimeo.

クライマックス、大統領とテロリストとの格闘。

Randy Newman - Air Force One (1997) - Unused Score - Get Off My Plane from Otisberg on Vimeo.

 ペーターゼンの言葉「私たちは少し違うもの、もっと斬新なものを得ようとした。結果的に上手く行きませんでした。音楽の品質とは関係ありません。ランディはビジネスで最も偉大な人物の1人であり、非常に才能のある人物です。我々はすべてそれを知っている。しかし、それは私の趣味ではなく、最終的に私はリジェクトの決定をしなければなりませんでした」
 対して、ランディの叔父であるアルフレッド・ニューマンと親交があったジェリー・ゴールドスミスは子供の頃から知っているランディの代わりをしなければならなかったことに複雑な心境だったろう。

 ランディー・ニューマンのスコアをどう感じるかは人によって違うだろう。ただ、個人的にはスコアだけ聴いた段階で、大仰で、キレがなくて、野暮ったいと感じた。あと、テロリストの出自を表すモチーフがあからさまなのと、緊迫したシーンにあっていない。こうして映像と合わせてみるとさらにはっきりするが、音楽を聴かせるためにこの映像では音楽が出張っているが、それにしても主張しすぎだ。さらには少々ミッキーマウジングが過ぎる。ミッキーマウジングとは古いアニメのようにミッキーがアクションする度に音楽がそれに合わせて鳴らすことで、殴るとジャン!転ぶとヒュルン!階段を上るとタタタタタ!という風に音で行動を表現すること。実写でミッキーマウジングをやりすぎると、コメディでもない限り失敗する。それほどあからさまではないとは言え、主役が動くとアクションスコアスタート。隠れるとスコアもストップ。反撃でスコア再スタート。試写で観客が笑ったのはこのせいだろう。ペーターゼンは『トロイ』の時も古いタイプのスコアをヤーレに書かせていたので、そう言う趣味なのかもしれない。個人的には『トロイ』は神話世界・史劇ということもあり、古い感覚でもいいんじゃないかと思ったし、ヤーレのスコアは力作だった。
 ところが、あれだけアクション作品を担当しているハンス・ジマーはランディ版を絶賛して、ゴールドスミス版をけなしている。まあ、ジマーはハリウッドの作曲家がリスペクトするゴールドスミスをハリウッドの象徴として敵視していた節があるので、これもそのひとつかと思う。他にも、多人数で作曲することの是非を問われて、ゴールドスミスもやってるじゃないかと根も葉もないことを発言したり。どこを評価したのか詳しく聞きたいものだ。なお、ジマーはハリウッドに渡った後、ハリウッドのシステムで苦労したので、外国人や若手のためにメディアヴェンチャーズ(現リモートコントロール)を作ったという経緯がある。

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