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2012年7月 6日 (金)

リジェクトスコア 16

 最終回ということで、まとめ的に。

 音楽という映画製作の一面だけ見ても、映画というものはスタジオ&製作者がすべての権力を握っているというのがよくわかる。その次が監督だが、製作兼任していないと、その権力は実に小さい。世の中、やっぱり金を握る者が一番強いというわかりやすい構造でした。

 テスト試写(英語ではTEST SCREENING)での結果が左右される例が時代が新しくなるにつれて増えてくる。要は失敗したくないために半完成品(あるいは完成品の場合も)を、年齢性別人種などをバラバラに、あるいは狙ったターゲット層のみなど、様々な条件で集めて見せるものだ。そういうセッティングを専門に請け負う会社もある。
 特に映画に詳しいわけではない人々に感想を訊くわけで、大半は音楽など覚えていないことが多い。いつも音楽を気にしたりするサントラファンが異常なだけだ(^_^;) で、音楽について訊かれてもたいした指摘は出来ないのではないだろうか。「あえていうと、音楽うるさかったね」とか、「昔の映画見たい」とか。製作者による不評の原因探しというのは、結局、今から出来る変更にしか向かない。今から主演俳優を変えるわけにはいかないが、編集と音楽変更なら今からでもたいした出費もなくできるからだ。結果として音楽に責任をかぶせて差し替え。こういうのが多いのではないか。

 監督や製作者に音楽についての理解が少ない、あるいは、そういう人材が少なくなってきているのも事実。UCLAやUSCの映画学科でも映画音楽の授業は縮小されているという。普段から意識がない上に、教育でも欠けているとなれば理解できなくても当然だ。せめて、監督志望者には音楽の役割を教え込んでもらいたい。というか、自分でも勉強してもらいたい。
 作曲家は昔なら監督の前でピアノでこんなメロディでと弾いてみせればよかったが、今はシンセモックアップ(シンセでオーケストレイションをして仕上がり見本を作ったもの)を作らなければ理解できない。ジマーと仲間たちが一時期もの凄く重宝されたのは彼らのスタジオには最新機材とスタッフが揃っているため、すぐにモックアップが作れたからだろう。サンプリングのおかげで生オケに近いものができるし、そのまま使っても違和感がないレベルのものになる。

 ほとんどの作曲家がリジェクトされた経験がある中、唯一例がないのがジョン・ウィリアムズだ。無名時代にはあったのかもしれないが、"TORN MUSIC"にも海外サイトにもはっきりとした事例は挙げられていない。スピルバーグと『スター・ウォーズ』後になれば金も時間もかかるというのがわかっているので、安直な起用はできなくなったのだろうが、それ以前にも例がないというのは奇跡的だ。

 以下は今回取り上げなかった事例。有名すぎて取り上げなかったもの、読み飛ばして失念したものなど。そのうち気が向いたらやるかも。とりあえず、ここまでということで。ここまで読んでくださって感謝。

バグダッドの盗賊(1940)
 /オスカー・ストラウス→ミクロス・ローザ

禁断の惑星(1956)
 /デイヴィッド・ローズ→ルイス&ベイブ・バロン

エル・シド(1961)
 /マリオ・ナシンベーネ→ミクロス・ローザ

人類SOS!(1962)
 /ロン・グッドウィン、ジョニー・ダグラス

引き裂かれたカーテン(1966)
 /バーナード・ハーマン→ジョン・アディソン

ボニーとクライド/俺たちに明日はない(1967)
 /ジョージ・バスマン→チャールズ・ストラウス

バーバレラ(1968)
 /ミシェル・マーニュ→チャールズ・フォックス

空軍大戦略(1969)
 /ウィリアム・ウォルトン→ロン・グッドウィン

華麗なる週末(1969)
 /ラロ・シフリン→ジョン・ウィリアムズ

ある愛の詩(1970)
 /ジミー・ウェブ→フランシス・レイ

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リジェクト」カテゴリの記事

コメント

 いまだに原書を入手できていないもので、とっても楽しかったです。
 また、こういう企画記事を期待しています。
 ジョン・ウィリアムスは1960年代に、テレビでテーマ曲のリジェクトを何度かくっているようですよ。

投稿: 尾之上浩司 | 2012年7月 6日 (金) 18:21

>尾之上浩司さん
 楽しんでいただいてよかったです。今ならAMAZONに在庫ありますね。誤訳指摘されそうで怖いですが(^_^;)
 ウィリアムズの件はそういう話は聞くんですが、具体的なタイトルが上がったのを見た記憶がないんですよ。いずれにしても、あったとしてもキャリアの初期ですよね。

投稿: SOW | 2012年7月 6日 (金) 18:36

私も楽しく読ませて頂きました。やはり映画製作で最後の皺寄せは音楽に来るのですね。ゴールドスミスの『エアフォース・ワン』は20日程度の短期間で書き上げたと言います。映画音楽の作曲家に真に必要なのは体力だ、と印象的なコメントをしていたのはジョン・ウィリアムスだったと思います。記憶に間違いなければ、ウィリアムスはハーバート・ロス監督の『シャーロック・ホームズの素敵な挑戦』(‘76)を干されていると思います。実際にスコアを書いたのかは分かりませんが・・・。(言うまでもなく、実際に音楽を付けたのはジョン・アディスンです。)

投稿: たかし | 2012年7月 6日 (金) 23:28

とても興味深く読ませていただきました。
リジェクト・ケースは、それがしこりとなって残る人と、「仕事だから」というスタンスで全く気にしない人とでは、その後の在り方に微妙な変化が見られるようですね。
大仕事、おつかれさまでした。

投稿: イントラ太 | 2012年7月 6日 (金) 23:31

>たかしさん
『シャーロック・ホームズの素敵な挑戦』は最初、バーナード・ハーマンが予定されていたのですが、映画完成前に亡くなってしまったので、アディスンになったはず。ウィリアムズは関係なかったんじゃなかったかな。ハーマン→アディスンという流れからして必然というか因縁なんですが。

>イントラ太さん
 モリコーネはずっと恨んでたようで。良くも悪くもハリウッドの人じゃないんでしょうね。

投稿: SOW | 2012年7月 6日 (金) 23:49

初めて書き込みます。いつも興味深く読ませていただき,サントラ購入の際の貴重な情報としても活用いたしております。ありがとうございます。
「ベイブ」の曲をゴールドスミスが書いてリジェクトされていたとは知りませんでした。メロディーメイカーでリリカルな曲も得意な彼がどんな曲を書いたのかぜひ聴いてみたかった。リジェクト後の作曲家の曲も悪くはなかったですが、クライマックスはサンサーンスの交響曲のメロディーの使い回しで、映画には合っていましたが、ちょっと違和感を感じた記憶があります。
リジェクトの話からそれますが,先日見たアカデミー賞受賞作の「アーティスト」の音楽は、クライマックスに至るや,バーナード・ハーマンの「めまい」をそのまま使い回ししていて、「ベイブ」のサンサーンス以上に違和感がありました。劇伴としては映像を盛り上げていたのですが、せっかく作曲家雇ったんだから,オリジナル曲で勝負するか、せめて「めまい」を作曲家の味付けでアレンジするかしてほしかったと思いました。

投稿: Poo | 2012年7月 6日 (金) 23:50

SOWさんへ。不確かな情報ですみません。柳生すみまろ氏の『映画音楽 その歴史と作曲家』(芳賀書店)に記載があったもので。確かに、ハーマン→アディスンはヒッチコック監督絡みの因縁ですね。そういえば『フレンジー』(‘72)はヘンリー・マンシーニ作曲のスコアがハーマン風として嫌われて、ロン・グッドウィンに変更されていましたね。ヒッチコックはハーマンの呪縛から逃げたかったのでしょうか。

投稿: たかし | 2012年7月 7日 (土) 00:05

>Pooさん
『アーティスト』の監督はヒチコックが好きなようで、前の作品『OSS 117 私を愛したカフェオーレ』でもオマージュなのか似たシーンと音楽を引用しているようです。自己満足と紙一重ですから、こういうのは気を使って欲しいですね。とりわけ、オリジナルのファンにとっては。

投稿: SOW | 2012年7月 7日 (土) 00:05

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