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2012年6月27日 (水)

リジェクトスコア 13

 ジェリー・ゴールドスミスの2回目。リドリー・スコット監督の2作品を丁寧に。

エイリアン(1978)

 "TORN MUSIC"には記載されていないが、これも立派なリジェクトである。
 リドリー・スコット監督の初ハリウッド監督作品にして、幾つものシリーズが製作され、今また前日譚『プロメテウス』が公開される人気シリーズの第一作。ちなみに『プロメテウス』でも一部にゴールドスミスのモチーフが使用されている。
 監督とゴールドスミスはあまりコミュニケーションが取れない状態で作業をしたという。意思の疎通が充分な状態でなかったために一旦すべて録音した後、全体の1/3ほどを書き直した。大きいのはオープニング。ゴールドスミスは最初からホラーっぽい不気味な雰囲気の音楽をつけない方がいいと考えたが、監督は逆の考えだった。そうして、一通り録音したところでゴールドスミスの仕事は終わった。しかし、その後、スタジオの判断で意図していない使い方をされ、さらにはゴールドスミスの過去作品『フロイド』から数カ所流用された。これは不安感を煽る意図があったようだ。極めつけはラストからエンドクレジットの音楽で、編集のテリー・ローリングス(かつては音響編集をしていた)が監督に推したハワード・ハンソンの交響曲第2番"ロマンティック"第1楽章に差し替えられてしまった。もっと明るく、希望のある雰囲気にしたかったのだろう。
 現在ではスコア完全盤としてINTRADAからゴールドスミスの意図通りのスコアと、映画で使用されたスコアを収録した2枚組がリリースされている(但し、『フロイド』とハンソンは未収録)。→■AMAZON■TOWER
 流用された『フロイド』はVARESE SARABANDEから限定盤がリリースされている。→■TOWER

 なお、ハワード・ハンソンはアメリカの代表的なクラシカルな現代音楽作曲家であり、1981年没。自身の指揮による録音が有名だが、本作で使用された録音は1967年のチャールズ・ゲルハルト指揮、RCAシンフォニー・オーケストラのもの。因縁めいているが、このオーケストラはそののち、ナショナル・フィルハーモニック・オーケストラと名を改める。言うまでもなく、本作の演奏をしたオケである。→■TOWERRCA Symphony Orchestra: Light Classical Treasures - Various Artists

Legend_silva_americaレジェンド 光と闇の伝説(1985)
 /ジェリー・ゴールドスミス、タンジェリン・ドリーム

 同じくリドリー・スコット監督によるファンタジー。『エンゼル・ハート』の原作者ウィリアム・ヒョーツバーグによるオリジナル脚本で、闇の魔王が光の力を持つユニコーンを滅ぼそうとする。トム・クルーズ、ティム・カリー出演。ロブ・ボッティンのデザインとメイクの技が冴えた一品。
『エイリアン』の公開時に自分のスコアが意図と違うように使われ、さらにエンドクレジットが差し替えられてしまったことに気づき、不満と不信を抱いていたゴールドスミスだったが、シナリオに興味を持って引き受けた。その際、監督にこう言ったという。「リドリー、君はコミュニケイトできない。私は4ヶ月あの映画で仕事をしたが、4回しか君と話していない。録音の間も君は一言も意見を言わなかった。私はフィードバックが欲しいんだよ」 監督はこれを受け入れ、今回は頻繁に意見の交換をすることになった。まず撮影が始まる前に取りかかったのはヒロインが口ずさむ2曲の歌だった。撮影時に必要となるからである。そして、それをモチーフに全体を仕上げていった。最終的に80数分のスコアをナショナル・フィルとアンブロージアン・シンガーズ、それにシンセで録音した。

 ところで、製作費が大きな作品になると、複数のスタジオが製作費を出し合って、配給エリアやビデオ化の利益を分けたりしてリスクを減らすことが増えてきた。『タイタニック』がそうで、20世紀フォックスだけでは負担できない規模に膨れ上がった製作費を分けて、ヒットしそうにないリスクを回避しようとした。もっとも、これは大失敗で、あれほどヒットするとわかっていれば1社でなんとかしただろう。ちょっと金を出しただけのパラマウントはアメリカ国内の配給をして大儲けすることになったのだ。本作もすべてパインウッドスタジオを使ったセットでの撮影、しかも、凝り性の監督となったことで製作費が膨らみ、製作に複数のスタジオがからんできたことが問題を生んだ。具体的にはアメリカ国内と近隣国配給はユニバーサル、それ以外は20世紀フォックスで配給をわけることになったのだ。
 監督は当初140分で完成したフィルムを114分に編集するのに苦闘していた。さらに20世紀フォックスから94分にするようにと言われる。当然音楽も変更が必要となり、様々な手法が使われた。本来意図されていた個所ではない部分に付け替えたり、音楽をつけないと作曲家と監督で決めたキッチンでのアクションシーンも短くなったために音楽の必要が生じ、ゴールドスミスの『サイコ2』やライブラリーミュージックから取ってきて付け加えた。とにかく、それで20世紀フォックス版は完成し、日本でも公開された。

 アメリカ国内向けではさらに事情が複雑になった。ユニバーサルのシドニー(シド)・シャインバーグ(『未来世紀ブラジル』におけるテリー・ギリアム監督との編集戦争などで悪名高い)はターゲットとする観客(トム・クルーズ主演と言うことでティーンエイジャーだったろう)にテスト試写を行った。結果は散々で、観客はファンタジーを理解できず、笑いさえした。シャインバーグはアメリカ公開を半年延期し、追加撮影と再編集に口を出し始めた。音楽についてもティーンエイジャーを意識してタンジェリン・ドリームが選ばれ、監督は彼らにコンタクトした。

 タンジェリン・ドリームはドイツのシンセロックバンドで、初期の実験的なスタイルからメンバーチェンジをすることで徐々に音楽性も変化し、ウィリアム・フリードキン監督の『恐怖の報酬』(1977年)で映画音楽に進出した。しかし、この時のメンバー(エドガー・フローゼ、クリストファー・フランケ、ピーター・バウマン)は本作とは違っている。1977年にバウマンは脱退し、若干の移動の後、1980年にヨハネス・シュメーリングが加入。シュメーリングが脱退する1986年まではファンの間で第2次黄金期と呼ばれている。この間は最も映画音楽の担当が多い時期でもあり、『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』に始まり、『ザ・キープ』や『炎の少女チャーリー』など15作以上。いずれも特徴的なリズムと無機質なメロディからなるスコアだが、最後となった本作についてはリズムは控えめで、『恐怖の報酬』のような空気感が印象的。ゴールドスミスのスコアがついた状態で映画を観たということもあり、影響を受けたのかも知れない。
 シャインバーグはさらにティーンエイジャー向けにしようと考え、公開前にタンジェリン・ドリームの関与なしにラストシーンのスコアに歌詞をつけ、YESのジョン・アンダーソンに歌わせ、エンドクレジットには新たにブライアン・フェリーの歌を追加した。このアメリカ公開版は89分とさらに短くなっている。

 現在、ディレクターズカットとして発売されているのは監督が最初にゴールドスミスと計画したとおりの140分のヴァージョンではなく、114分に編集したものである。すでに存在しないと思われていたが、2000年に発見され、2002年にDVDで発売。日本では今年になって日本公開版とセットで、アメリカではアメリカ公開版とのセットでBD化されている。残念ながら、このヴァージョンでも『サイコ2』などの音楽はそのまま使われている。

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