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2012年4月13日 (金)

ジョン・カーター

Johncarterposterジョン・カーター

 エドガー・ライス・バローズの『火星のプリンセス』を『ウォーリー』のアンドリュー・スタントンが実写化。原作の最初の原稿が書かれたのは今から101年前。出版されたのは1917年。まだスペースオペラもヒロイックファンタジーも登場しておらず、『指輪物語』もないという時代にもかかわらず、奇想で読者を楽しませた。ジェイムズ・キャメロンもジョージ・ルーカスも子供の頃に読み、映像化を考えたという古典中の古典である。

 なのだ、が……。
 悔しいことにハリウッド史上最高のコケ方をしてしまった。製作費2億5000万ドルに対し、アメリカ国内の興収は現時点で7000万ドル程度。全世界では現時点で1億8000万ドル。これから公開の国もあわせてもプラスにはならないだろう。少なくともアメリカ国内でプラスにして、その他の分はすべて儲けということにならないとビジネスとしては失敗なのだ。
 この失敗の原因のひとつは明らかにプロモーションだろう。タイトルの段階でイヤな予感がしていたが、訴求力がないよね、このタイトル。監督はラヴストーリーがメインだと言ってるんだから、それを匂わせるタイトルと宣伝をすべきだ。原作ファンからなにを言われようが、女性客を呼ばなくてはいけない。そしてキーヴィジュアルの不在も大きい。どんな映画なのかわからないポスターでは客は呼べない。
 もうひとつの原因はやはり原点でありながら映像化としては後発になってしまったため、すでに幾つもの映画にイメージを借用されており、それを越えるヴィジュアルを提示することが難しかったという点もあるだろう。原作に書かれていることを変えるのも難しく、結局、「***のパクリじゃん」と観客に思わせてしまったのは悲劇というしかない。

 大富豪の伯父が死んだという知らせで、若きエドガー・ライス・バローズは邸宅に向かう。南北戦争の大尉だったジョン・カーターからの遺産を引き継いだバローズはカーターの書き記した日記を読み始める。そこには信じられない冒険譚が記されていた。戦争で妻子が犠牲になり、自責の念を抱いて戦後放浪していた彼は、ふとしたことで別の惑星バルスームに飛ばされていたというのだ!
 主役に『バトルシップ』が日本で同時公開(アメリカより一ヶ月早い)のテイラー・キッシュ、ヒロインにリン・コリンズ、パフォーマンスキャプチャーで巨大な四本腕の緑色人を演じるのはウィレム・デフォー、トーマン・ヘイデン・チャーチ(『スパイダーマン3』のサンドマン)、サマンサ・モートン、ポリー・ウォーカーなど。

 原作1巻目はかなり単調なので、そのままではとても2時間もたないのでどうするかと思っていたら、2巻3巻で登場する要素を加え、さらにオリジナル要素を加えてまとめあげてきた。それがきちんと原作の要素を補完し、一本の映画として仕上げることに貢献しているのが素晴らしい。カーターが火星に飛ばされる現象も、今風に(!)納得できる設定にしてあって、これも文句なし。

 デザインやキャラも原作のイメージを大事にしながら、それを今風に変更しているところがいい。どうしても日本では創元SF文庫の武部本一郎イラストのイメージがあるが、原作を読むとちょっと違うという部分もある。たとえば、火星犬のキャロットはカエルみたいと書かれているが、武部イラストは犬っぽい。映画では確かにカエルだ。緑色人は身長の高さについては書かれているが、体格がごついとは書かれていない。武部イラストでは筋骨隆々だ。映画ではかなりほっそりしている。身長は原作より低め。これはカーターと同じカットに収めると上下に間延びするためだろう。空を飛ぶ船は翼を持った台座のようだが、この翼が太陽電池だったというのは、いかにも今風。
 キャラについてはタルス・タルカスの立ち位置や、デジャー・ソリスを今時の戦えるヒロインにしたというマイナーな変更がありながら、ストーリーラインは原作を尊重している。まあ、絶世の美女というには少々厳しいが、どこかエキゾチックで気品と気位のある王女で、時折いい表情が見えたのでOK。一番原作と違うのはカーター。いかにも裏表も闇もない好漢だった原作のままでは弱いと、過去を背負わせた。そして、未来に向かわせる転機として、この冒険譚を仕立てた。アンドリュー・スタントンとマーク・アンドリュース(ストーリーボードや『メリダとおそろしの森』監督)、そして、マイケル・シェイボン(『スパイダーマン2』のストーリー)の脚本には文句をつけどころがない。

 原作を読んだのが中学3年から高校の頃。すでに30年以上ファンやってることになる。その上で言おう。これが観られて、本当によかった。

ジョン・カーター
JOHN CARTER

■AMAZON

 音楽はマイケル・ジアッキーノ。子供の時から原作ファンだったというスタントンから依頼された時、ジアッキーノは原作の存在も知らなかったようだ。その後も監督のイメージを優先させるために原作は読んでいないそうだ。で、そのスタントンのコンセプトはラヴストーリー。それに応じる形で、音楽のメインはカーターのモチーフとヒロインであるデジャー・ソリスのモチーフが大きなウェイトを占めている。カーターのモチーフはとにかく至る所で聞かれる。史劇のように雄大だったり、現代的なアクションスコアだったり、時にはバレエだったり。単純なだけにアレンジも自由自在。アルバムを聴き終えれば耳に残るだろう。対するヒロインのモチーフはカーターのモチーフと表裏一体というかかなり近いイメージ。大白猿との戦いのシーンではダイナメーション映画を意識したというから、ハーマンのパーカッシヴなスコアを念頭に置いたのだろう。ダイナミックなスコアになっている。『メダル・オブ・オナー』などジョン・ウィリアムズに影響を受けた昔のジアッキーノのエッセンスもかなり入っており、ファンとしては納得の出来。
 ラヴストーリーが中心ということで大迫力の激燃えアクションスコアは実は少なめだが、最近のファンタジー大作のスコアの中では一本筋の通ったスコアなのは間違いない。

 本編視聴後に最も印象に残ったのは9曲目。これは演出のせいもあって極めてエモーショナル。危うく男泣きしそうになった。

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